次の日、目が覚めると部屋はとても静かだった。

そりゃあ、いつも騒がしいわけじゃないけど。

何と言うか、こう、胸の中でざわざわと何かがうごめくような、とても嫌な感じがする静けさだ。

「レイ?」

キッチン、トイレ、洗面所。

どこを探してもレイの姿は見当たらない。

僕の焦りは更に大きくなる。

「レイ、起きてる?」

思わずレイに使ってもらっている部屋の前でレイを呼んだ。

しかし返事は何も返ってこない。

「レイ?」

物音ひとつ、聞こえない。

「開けるよ!」

僕は焦る感情を隠せないまま、扉を開けた。

同時に目を見開いた。

「レイ、どこに行ったの」

部屋には、レイの姿がどこにもなかった。


呆然とした。

一体どこにいった。

嫌な予感、変な胸騒ぎの正体は、これか。

どうしようかと思ったその時、電話が鳴った。


「もしもし!」

慌てて出れば、相手は紗由だった。

「紗由?!」

まさかの人物に僕は動揺を隠せない。

「あのね、レイちゃんのことだけど」

「レイの?!」

紗由はびっくりしたような声で「落ち着いて」と繰り返した。

「今、レイちゃん、うちにいるの」

紗由はゆっくりゆっくり、僕を落ち着かせるように言った。

「朝早くにうちに来たよ。玄関を開けた瞬間飛びついてきたから驚いちゃった」

固唾を飲んで次の言葉を待つ僕にレイは笑いかけた。

「やっぱり、椎くん、すっごく心配してる」

「そりゃ、そうだよ」

僕は言った。

「レイは僕の…」

そこまで言ってハッとして、言い直した。

「僕の、従兄弟だから」


僕は、今、何を言いかけた?


「そっか」と紗由は言った。


「でもきっと、気づいてるんでしょ?」


「え?」


一体、何に?


そう尋ねる前に、紗由は「ああ、それとね」と言った。


「レイちゃん、勝手に家を出たこと、ちゃんと反省してるみたいだよ。

それに、家出した理由もちゃんとあるから」

怒らないであげてね、と紗由は穏やかに笑う。

「家出した理由?」

怒りに身を任せて、ということではないのか?

それとも別の理由が?

「レイちゃんと私、今からちょっとやることがあるから。今日の午後迎えに来てあげて」

じゃあね。

紗由はそれだけ言うと電話を切った。