「はあ?」

「椎が、悲しいのに、泣きたいのに、泣かないから」


レイは僕の腕を掴んで言う。


「椎は、本当は、悲しいんでしょ、泣きたいんでしょ」

「何、言って…」


「顔では笑ってても、心は泣いてるから」



僕の腕を掴むレイの手に力が入る。



「椎、泣いているんでしょ」



僕は、目を見開いた。

レイに、心の内を見透かされてしまった。

レイに、こんな小さな子に、見破られてしまうほど、僕はあからさまな態度を取っていたのだろうか。

ユズならともかく、この鈍感なレイに見破られてしまうほど、僕の感情は表に出ていたのか。

あれだけ必死に隠していたのに。

「どうしたんですか、椎?」

「いや、ちが…」


僕は笑って隠そうとしたのに、レイは。


「違わないでしょう」


簡単に、僕の仮面を見抜いてしまう。


「なんで隠そうとするんですか」

真っ直ぐな目で、僕を見る。

どこまでもまっすぐで、純粋で、汚れを知らない瞳。


「どうして、レイは、分かるのかな、そういうの」


僕は笑顔を保とうとした。けれど自分でもちゃんと笑えているのか自信はなかった。

平静を装うことを心掛けた声も、震えてしまった。


「…椎は、嘘を吐くのが下手ですから」


レイは少し微笑むように言った。


「そっか」


僕は俯いて少し笑った。

嘘を吐くのが下手、か。

まさかその言葉をレイから聞くことになるとは微塵も思っていなかった。

それに自分でも嘘を吐くのは、誤魔化すのは、上手な方だと思っていた。

今までずっとそうしてきたから。

僕の嘘が、誤魔化しが、ばれるのはユズだけだと、そう思っていたのに。


「無理しないでいいんです」


レイは穏やかに微笑んでいた。


「無理して隠さないでください。悲しいって思う心も、辛いって思う心も、無視しないで、蓋をしてしまわないでください」


「じゃあ、どうすればいいの」