「一度迷子になったやつがそんなことを言ってもね」

僕は笑ってレイの手を握りなおした。

「手をつないでいるとさ、ちゃんとレイがここにいるって分かるでしょ。安心するんだよ、そういうの」

溜息を1つ吐いて、また歩き出した。

陽はまだ残っていて、あたりはまだ少しだけ明るい。

イルミネーションを見るにはまだもう少し暗さが足りないかな。

なんて考えているうちに駅前に到着してしまった。

「おっきいですね…」

レイは見上げてそういった。その大きさに圧倒されているようだ。

「そうだね」

僕も見上げた。

駅前の巨大なクリスマスツリーは黄金やピンク、赤や青など様々なオーナメントが飾られていて、とても煌びやかだった。

想像していたよりも、とてもきれいだ。

「すごいです…」

レイはほうっと溜息を吐いた。感動しているらしい。

「感動するのはまだ早いよ」

僕の言葉にレイは首を傾げた。

「どういう意味ですか?」

レイの問いかけに僕は何も答えずに、ただクリスマスツリーを見ていた。

「…もうすぐ分かるよ」

「教えてくれないなんてひどいです!」とかなんとか、レイは怒っている。まぁ、怒る気持ちも分からんでもないけれど。

それに、お怒り状態のレイを今どうにかなだめる必要はない。

僕の言っている意味が分かった時、きっとレイは笑顔になっているだろうから。

陽は間もなく落ちる。

切ないオレンジから深い青へと刻一刻と変わっていく空を見つめながらその時を2人待った。

「まだですか」

ベンチに座っていたレイは待ち疲れたと言わんばかりに、不貞腐れたような様子で言う。

「もうちょっとだよ」

僕は少しなだめた。

ちらほらとクリスマスツリーを囲む人々が多くなってきた。

大概はカップルだが、何人か親子連れのところもあった。きっとみんな、クリスマスツリーを見に来たのだろう。

その瞬間を見るために。

「椎。クリスマスツリーは、よーく、よーく見ることができました」

レイは立ち上がっていった。

「もう十分です。帰りましょう」

僕は慌ててレイを引き留める。

「待って、まだなんだ」