あの花が、この場所で凛と咲き誇っている、その姿をどうしても見たいと思った。

この場所で、冬の寒さに耐え忍び、いつの日か花を咲かせてくれたなら、僕はきっと、その事実だけで生きていける。


それほど僕にとって特別な花。


今はまだ、黄緑の小さな葉っぱが土から少し顔を出した程度だけど、きっとこれから成長していく。


僕の、希望。



「椎くんって、本当にその花が好きなんだね」


紗由が突然、穏やかな笑顔でそんなことを言った。


「どうして?」と尋ねると「だって」と彼女は微笑んだ。


「すごく優しい目で見てるから」


言い終わると紗由は「もう行くね」と立ち上がり、スクールバッグを片手に持ち、それとは反対の手を振った。

僕も立ち上がり手を振り返して、紗由が遠ざかっていく姿を見ていた。

その姿が完全に見えなくなると、僕はまたジョーロを持ち、花に水を与えた。

時折冷たい風が刺すように吹いて、ぶるぶる体が震えた。

11月も後半。通りで寒いはずだ、と鼻をすすりながら独りごちた。


水やり当番仕事を終えると、帰り支度を済ませるために教室へ向かう。

ガラリと教室のドアを開けると、そこには僕の見知った人物がいた。


「よう、椎」