しがない高校生に与えられた、ほとんど唯一の幸せ。

そう、二度寝。

一度目を覚ましてから実感する布団の暖かさ。

冬なんて特に幸せが倍増するのだ。

なんて幸福な時間だろう。

できるのならもう少し。あと少し。

このぬくもりに包まれて、眠りたい。

「椎!」

誰だろう、この幸せから現実に引き戻そうとする声は。

「椎、起きてください!」

やめてくれ、僕はまだ眠っていたいのに。

「しー…いぃぃいい!」

「うーん…」

レイの大音量の呼び声で目を覚ませば、レイが怒ったような顔で僕を見下ろしていた。

「何…レイ…」

眠たい目をこすりながら尋ねれば、「何、じゃないです!」と怒鳴られた。

寝起きの人に大声で怒鳴るのはやめてほしい。声がガンガンと頭に響く。

時計を見れば午前7時。今日は休日なのに、平日並みに早起きだ。もっと眠っていたかったのに。

「今日だって約束したじゃないですか!」

「何を…?」

僕がそう聞けば、レイは信じられないと言わんばかりの顔で「忘れたんですか?」と悲しそうに怒った。

「椎が言ったんじゃないですか!今日行こうって!」

首を傾げたところで、ようやく理解した。レイが言った言葉の意味を。

「そうだったね。今日行くって言ったもんね。駅前のクリスマスツリー」

レイはその途端パァっと顔を明るくした。レイのそういうところが可愛いなあと思う。

「でも、すぐには出かけないよ?」

「え?」

キョトンとしたレイの顔を見ながら、僕は言った。

「クリスマスツリーのイルミネーション。それ、夜じゃないとやらないよ?」

「えぇ?」

「イルミネーションがないと、クリスマスツリーの綺麗さ半減だよ?」

「えぇぇぇええええ!?」

レイは崩れるように悲痛な叫びをあげた。

「だから、出かけるのはまだ先だよ…って、レイ?」

崩れるようにうなだれていたかと思っていたレイはすっくと立ちあがった。

「夜までクリスマスツリーのイルミネーションはないんですね」

俯きながらそう言葉にするレイに、僕は「そうだよ」と頷く。

「じゃあ、それまで駅前で待ちましょう?」

満面の笑みでそう言われたら、僕は「YES」以外の答えを答えられなかった。