「どうしたの、紗由(さゆ)。今日君は水やり当番じゃないでしょう?」

紗由はにっこりと笑っている。


「うん。でも今日は椎(しい)くんの当番の日だから、何か手伝えることがあればいいなあって」


僕と同じ園芸部員の紗由はセミロングの少しウェーブがかった茶色の髪が特徴的で、いつも髪を後ろでポニーテールにしている。

少し控え目で穏やかな性格の彼女と僕は同じクラスで互いに植物と読書が好きという共通点もあり、すぐに仲良くなった。

紗由は僕の隣に座りながら、ビオラの隣を見つめた。


「聞いたよ。椎くんがわざわざ部長に頼み込んで植えたんだって」


ビオラの鮮やかな色の隣に目をやる。

土の中から黄緑の葉がひょっこりと顔を出したこのスペースには、ある花の球根を植えた。紗由が言った通り、部長に頼んで植えさせてもらったものだ。


「何の花を植えたの?」

「秘密」

そう答えた僕に「教えてくれたっていいじゃない」と紗由はからかうように言った。


「でも、どうしてここに植えたの?そんなに植えたいなら家でも良かったんじゃない?」


紗由の最もな言葉に僕は「家じゃだめなんだ」と首を横に振った。


「どうしても植えたかったんだ、この場所に」


紗由は訳が分からないという顔をしたが、僕はまっすぐ黄緑の葉を見つめた。


「この場所で、咲いてほしいんだ」