分量よりも少し多めのココアの粉末をカップに入れる。

沸かせたお湯をほんの少し注いで粉を溶かしてペースト状にしてから、牛乳を少しずつ注いでゆっくり混ぜる。

そしてレンジに入れて暖めて、出来上がり。

僕が知る限りいちばんおいしいココアの作り方だ。


レンジで温めずに冷たいままいただくのもまた美味。

テスト勉強のお供によく合う。僕ももう何度お世話になったことか。


2つ作ると僕はレイの待っている机へと運んだ。

机の上の雪は綺麗さっぱり水滴のひとつも残さず消えていた。

まるでさっきの出来事が夢のようだと思いながら、僕はレイにココアを差し出した。

「はい」

ありがとう、とレイは受けとると白い湯気が立ち上るカップを覗きこんだ。

「甘い匂いがします…」

レイは少し嬉しそうに、興奮した様子で僕の方に顔を上げた。

「うん。美味しいよ」

僕が一口自分の分を飲むと、レイは両手でカップを持って飲もうとした。

「熱いから気を付けてね」

僕の言葉を聞いたレイはハッと動きを止めて、ふうふうと息を吹き掛け冷ましてから飲んだ。

一口飲むと、レイはほうっと息を漏らした。

「どう? 嫌いだったかな?」

レイはふるふると顔を横に振った。

「美味しいです、すごく。私、すごく好きです」

良かった、と僕は少し安心して微笑んだ。

「レイは甘いものが好きって言ってたから、きっと好きになるって思ったよ」

するとレイはもう一口飲んで言った。

「でも、ココアは甘いだけじゃないですね」

「え?」

別に塩を1摘まみ入れたわけでもないし、僕には甘いとしか感じない。

僕が不思議に思っていると、レイはニコッと笑った。


「やさしいしあわせの味がします」


僕はレイの言葉に一瞬だけ目を見開いて、それから微笑んだ。



あたたかい、濃いめのココア。

ほっこりとしたやさしさが溢れた。