「証拠?」

「私が本物の雪の妖精だって証拠です!」

「よく見ていてくださいね!」とレイは人差し指で僕を指した。

そして机に両手をかざすようにしてぽつりと呟いた。

「降って」

レイは目を閉じて、やさしい、穏やかな顔で微笑んでいる。

はっとその顔に見惚れていると、レイの手から静かに雪が降り机に積もる。

白く儚い結晶はゆっくりと舞い降りる。

僕は驚くよりも先に、見入ってしまった。

その儚さに、美しさに、心を奪われたように。


「これで私が雪の妖精って分かったでしょう?」


ニイッと悪戯っ子のように笑うレイ。

僕は口を開けたまま、降り積もった雪を見ていた。

こんなことが、あるのか。

「椎? どうしました?」

「あぁ…分かったよ。レイは雪の妖精なんだね」

僕がそういうとレイはパァッと誇らしそうに笑った。

分かったとは言ったものの、僕の脳内は巡り続けていた。

帰り道に出会った女の子が雪の妖精だという事実。

それをどうやって受け止めろというんだ。

僕はどうしたらいいんだ。

この子にどうやって向き合えばいいんだ?

ぐるぐると思考は回り続けた。

けれど解決の糸口なんて分かるわけもなくて、ただただ堂々巡りを続けていた。

あぁ、到底分かりそうにない。

考えすぎて脳が疲れた。

こんなときはもう甘いものでも食べなければやっていられない。

「ココア、飲もう」

立ち上がりながらレイに尋ねた。

「レイも飲む?」

レイは首を傾げた。

「ココア…?…何ですか、それ?」

僕は一瞬思考が停止した。

ココアを知らない人がいるなんて、とも思ったが、レイならば仕方がないと思った。

彼女は今日人間界にやってきた(落ちてきた)雪の妖精なのだから。

「レイは暖かいものは食べれるの?」

僕が尋ねるとレイはコクンと頷いた。

「ココアは、とても暖かくて甘い飲み物だよ。きっとレイも気に入る」

するとレイはぱあっと顔を明るくさせた。

「甘いものは大好きです」

それは良かった、と僕もつられて微笑んだ。


この世の全てを理解できるなんて、あるはずがない。

ましてごく普通の高校生である僕が理解できることなんて限られている。

だから、分からないことは分からないまま。

レイの存在のことだって、いつか分かればいいな、なんて気楽に考えてみる。


苦しいよりも楽しい方が、僕は好きだから。