長江先輩が海牙さんのそばにしゃがみ込んで、グレーの制服の背中をさすった。



「だから、おれがやるって言ったんじゃん。海ちゃん、悪役やるたびに吐いてるっしょ? しかも食べてないし。

あ~ぁ、胃液しか出てこない。苦しいね。もう無理しなくていいって」



信じられない気持ちだった。


海牙さん、無理していたの?


飄々《ひょうひょう》としてるのは仮面で、本当はストレスで吐くほど気を張っていたの?



煥先輩がこぶしを握ったままで固まっていた。


眉根を寄せた顔は、怒りではなく心配の表情を浮かべている。



海牙さんはひとしきり咳き込んだ。


咳が落ち着くと、荒い呼吸をしながら、長江先輩に言った。



「ありがとう。もう、収まりました」