「彼方!壱!待って!」
嬉しそうに彼方達の元へ走っていく陽を見て、フッと笑みを零す俺。
沈んだり上がったり忙しい奴だな。
「罠だと、思うか?」
陽に目を向けたまま、隣に居る十夜にそう問い掛ける。
「……分からねぇ」
「まぁ、罠だとしても行くしかねぇよな。あの男は“F市”って言ってた。もしかしたら本当に凛音が居るのかもしれねぇぞ」
「……そうだな」
何を考えているのか全く読めない返事に振り向くと……。
「十夜!!」
振り向いた瞬間、十夜の身体がグラリと前へ傾いた。
慌てて腕を伸ばし、受け止める。
「……っ大丈夫だ」
「十夜っ!」
受け止めた俺の手を左手で制し、何事もなかったかのようにドアへと歩いていく十夜。
……馬鹿が。何が大丈夫なんだよ。
グッと唇を噛み締め、拳を握り締める。
凛音が居なくなって一番ショックなのは陽だと言ったけど、今の十夜を見て思った。
一番ショックだったのは十夜かもしれないと。
友情と恋愛感情を比べるつもりはないが、恋愛感情があるのとないのとでは全然違うと思う。
愛する人が居なくなった哀しみは“友情の愛”だけの俺等より遥かに強いだろう。
その証拠に、十夜はあれからあまり食事をしていない。
今までもそんなに食べる方ではなかったが、前よりも明らかに食べる量が減った。
顔色も悪いし、きっと睡眠も十分に取っていないんだと思う。
このままでは確実に身体を壊す。
どうにかしたいけど、俺達ではどうする事も出来ない。
「凛音……」
お前にしか十夜を元気にする事が出来ねぇんだよ。
「……早く帰って来いよ。馬鹿凛音」


