こうなったら“あれ”しかない。



『それ以上口開いたら遥香さ──』


「わぁー!!分かった分かったストップ!!」



フッ、勝った。

あたしに楯突くなんて百万年早いっつーの。


わたわたと不審な動きをする色ボケ遊大にベーッと舌を出してやった。


ふふふ。遊大の弱味握っちゃったー。


さぁーて、これから楽しくなるねー。



遊大をからかう材料が出来て、ムフッと笑いが込み上げる。



「凛音」


『……ん?』



笑いを堪えながら階段に足を掛けようとした時、隣にいる優音が“あたし”の名前を呼んだ。


不思議に思いながら顔を上げると、優音は眉を潜めながらあたしを見下ろしていて、そのまま目線を降下させていく。



『……っ、』



その視線を辿っていけば、繋がれているあたしと優音の手が目に入って、瞬時にその意味を“理解”した。



“あの人”の顔が脳裏に浮かぶ。


それがあまりにも鮮明すぎて、繋いでいた優音の手を思いっきり振り払ってしまった。



『ご、ごめん。男同士なのに……』



無理矢理笑顔を作り、優音の返事も聞かずに階段を駆け上がる。


それが余計に思い出す事になるとも知らずに。




“危ねぇから一人で上がんな!!”




『……っ、』



脳内で響いた怒鳴り声にビクッと身体が震えて、バランスが崩れる。



「リン!」



慌てて手すりを掴み、踏み止まった。



『……っ、こう……』



今、煌の声がした……。



ううん、違う。そんな筈ない。


ここは獅鷹の倉庫だ。煌はいない。


居る筈がない。



“落ちるから一人で上がんなって言ってんだろ!下見て歩け!”



毎日のように言われていた言葉が、走馬灯のように駆け抜けていく。