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「凛音、お前何処行ってたんだよ?」


「……あ、引っ越しの片付けに行ってたの。ごめんね、言わずに言って」


タイミングが悪いとはこういう事を言うのだろうか。


玄関を開けた途端、優音と鉢合わせしてしまった。


良かった。赤み引いてから帰ってきて。


優音鋭いから、目赤くなってたら突っ込まれそうだし。


「次からはメールぐらい入れとけよ」


「うん、ごめん。……っていうか、優音、何処か行くの?」


バイクのカギ持ってるって事はそういうことだよね。


「……ちょっと、倉庫にな」


「そっか。貴兄は?」


「もうすぐ来る」


「……あ」


ホントだ。

タイミングを見計らったかのようにリビングから出てきた貴兄。


「凛音、帰って来てたのか」


「……うん、今」


「引っ越しの片付けに行ってたんだってさ」


「そうか。片付いたか?」


「うん。もうすぐ終わる」


当たり前と言えば当たり前なんだけど、貴兄はいつもと変わらず優しい。


頭を撫でてくれる大きな手も向けられる優しい瞳も、いつもと変わりない。


いつもと違うのはあたしの方だ。


十夜の事があるからか、後ろめたくて真っ直ぐ目を合わせられない。


貴兄の優しすぎるその笑顔が、罪悪感を蓄積させる。