「……十夜が帰るの、見てる」
ギリギリまで近くにいたい。
そう思っているのに。
「早く行け」
十夜はそれを許さないと言わんばかりにあたしの後方へと目を向けた。
「……十夜が行ってよ」
それを見たあたしは唇を尖らせて十夜を睨む。
見送られるのは嫌。
今はまだ我慢していられるけど、背を向けたら最後、きっと泣いてしまうと思うから。
十夜は鋭いからそれに絶対気付くでしょう?
だから、嫌。
「凛音」
そう思っていても、結局は十夜に従うんだ。
「……分かった。じゃあ十夜後ろ向いてて」
だって、これ以上十夜の困った顔を見たくないから。
十夜はあたしの頭にポンッと手を乗せると、何も言わない代わりにフッと笑みを零した。
そして、くるりと背を向け、バイクの元へと歩いて行く。
十夜はきっと、あたしが泣きそうになってるのを気付いてくれてたんだ。
だから何も言わずに背を向けた。
十夜、ありがとう。
薄暗がりの中、確かな存在感を放ちながら歩いて行くその背中に、涙を浮かべながら微笑んだ。
しっかりとその姿を目に焼きつけ、自分も十夜に背を向ける。
さよならは言わない。
いつかまた逢えると信じているから。
きっと逢えると、そう信じているから。


