「十夜………」
それを破ったのはこの場にそぐわない遥香さんの可愛らしい声。
顔を上げると、不安げな表情で十夜を見ている遥香さんがいて。
十夜に寄り添うようにギュッとしがみついている。
それを見た瞬間、背後で遊大が微かに動いた気がした。
遊大……。
遊大が今、どんな気持ちでいるのかあたしには分かるよ。
きっと、あたしと同じ気持ちだと思うから。
「──離せ」
十夜が遥香さんの手を振り払う。
けど、それは“遥香さん”を振り払った訳じゃない。
「離せ」
優音の腕を掴む為に振り払っただけ。
優音の手を掴んだ十夜が優音を睨み付ける。
「──アンタ、まだ分かんねぇの?」
先に沈黙を破ったのは優音で。
まるでさっきの仕返しと言わんばかりに十夜を睨み付け、唸るように言い放つ。
「コイツを苦しめてんのはアンタだよ」
優、音……。
「そんな奴にコイツを渡す訳にはいかない」
優音の揺らぎないその口調に唇が震えた。
それと同時に固まる決意。
「離して」
「………」
「離して、十夜」
十夜に向けてそう言い放つ。
「優から手を離して」
落とした視線を再び上げ、十夜の瞳を真っ直ぐ見据えた。
「もう、終わったの」
左手で十夜手首を掴み、引き上げる。
すんなり離れた十夜の手は元あった場所へと戻っていき、それを見届けたあたしは再び十夜を見上げた。
揺らぐ漆黒の瞳に映るのは、自分の姿。


