優、音……。
顔を見なくても、その声で優音が怒っていると分かった。
普段からは微塵も感じさせないぐらい低い声。
その威圧的な声色に自分が言われた訳でもないのにゾクリと身震いがする。
「優……」
違う。違うの。
十夜は何もしてない。何もしてないの。
あたしがただ二人を見つけてしまっただけ。
二人を見て真実を悟り、勝手に傷付いただけ。
十夜には何もされていない。
だから、
だから…。
「……っ、遊大!」
そう叫んだのと同時に、遊大の胸元を両手で思いっきり押し返した。
「凛音!!」
不意をついたせいで簡単に逃れられたけど、直ぐ様遊大に引き止められてしまう。
それには何も抵抗しなかった。
あたしはただ遊大から抜け出して優音を止めたかっただけ。
薄っすらとボヤける視界に遊大の哀しそうな表情が映る。
……遊大、ごめんね。
あたしのせいで知らなくてもいい事を知ってしまった。
あたしのせいで遥香さんとの仲に亀裂が入ってしまった。
あたしの、せいで。
「優」
遊大に目を向けたまま、ポツリ、そう呼び掛ける。
すると、返事の代わりに大きな手がふわっと頭の上に置かれた。
優音は分かってるんだ。
あたしが此処に居たくない事を。
此処から早く立ち去りたい事を分かってくれてる。
だから、あたしの代わりに十夜の前に立ってくれてるんだよね。
……ありがとう、優音。
でも、それは自分でするよ。
ちゃんと、自分で終わらせる。


