「アイツか?」
ピクン。
その言葉に身体がまた小さく揺れる。
「アイツが、お前に何かしたのか?」
遊大はそれを敏感に感じ取り、ゆっくりと視線を上げた。
……違う。違う違う違う。
何もしてない。何もしてないから。
遊大の胸元をギュッと握り、こっちを向かせようと強く引っ張る。
だけど、遊大の視線は十夜を捉えたまま離そうとはしない。
「遊大、ホント何もないから。ね?行こう」
「馬鹿が。お前の嘘はすぐ分かるんだよ」
ちらりと視線をあたしに戻した遊大が眉を潜め、フッと笑みを零したかと思ったら、
「……っ遊大……!」
あたしの後頭部をグッと引き寄せた。
遊大の温もりが頬に触れる。
「……っ遊大、離して!」
「………」
首を左右に振ってそこから逃れようとするけど、それを阻止するかの様に更にグッと力を込められて。
頭が固定されて思うように力が入らない。
……駄目だよ。
遥香さんが見てる。
遥香さんが見てるんだよ?
こんな事をしたら誤解されてしまうのに……!
「──遊大、しっかり押さえてろ」
「あぁ」
「………っ」
……優、音?
遊大の後方から突如姿を現したのは優音だった。
姿は見えないけど声で分かる。
コツコツと一定のリズムを刻む足音。
その足音はあたし達を通り過ぎ、静かに止まった。
「何回泣かせば気が済む?」


