十夜と一緒に居れて幸せを感じていたのはあたしだけだった?
全部、全部独りよがりだった?
鳳皇を抜けると言った時に引き止めてくれた事も。
鳳皇の一員だと言ってくれた事も。
中田に拐われた時助けに来てくれた事も。
全部、偽りだった?
「………っ」
あの時、十夜が言った言葉。
“ごめんな”
その言葉の意味が、分かった気がした。
“身代わりにしてごめんな”
あの言葉はそういう意味だったのかもしれない。
「ちょっと十夜聞いてる!?」
「……あぁ」
「じゃあ十夜は何色が似合うと思う?」
「………」
アオイさんの問いかけに十夜は何も応えない。
「もう!絶対聞いてなかったでしょ!?」
そんな十夜にアオイさんが少しだけ声を荒らげると、十夜がアオイさんに向かってそっと手を伸ばした。
その手はゆっくりとアオイさんの髪の毛へと近付いていく。
……嫌だ。
嫌だ、やめて。触れないで。
嫌だ………!
その願いは虚しくも宙を舞い、十夜の手が割れ物を触るかの様にそっとアオイさんの髪の毛に触れた。
十夜の指に細くて綺麗な髪の毛が絡みつく。
その光景をあたしは微動だにせず見ていた。
ううん、違う。
動いてくれないんだ。
足も手も目も何もかも。
まるで金縛りにあったように全く動かない。
指先の感覚すら無くて、息をしているのかさえ分からない。
分かるのは心が氷のように冷たくなっていくということだけ。
もう、二人を見ていたくない。
「……十夜?」
名前を呼んだアオイさんがゆっくりとこちらを振り向く。
今まで見えていなかったその顔が少しずつ露になっていき、完全に此方を向いた。
「……ぁ…」
う、そ──
「遥香は何もしなくていい」
──振り向いた彼女は、
あたしの“知っている人”だった。


