「………」
「………」
なんで、何も言ってくれないの?
お礼を言ったら何か返ってくるものだとばかり思っていた。
それなのに、十夜は何も言ってくれない。お陰で立ち去るタイミングを逃してしまった。
このまま立ち去ってもいいんだろうか。
それとも何か反応を示してくれるまで待っていた方がいいんだろうか。
困惑した頭でどれだけ考えても答えなんて出てこなくて、結局どれが一番正しい答えなのか分からないまま、ただ俯いて返事を待つしかなかった。
……十夜は今、どんな顔をしているの?
どんな顔であたしを見てるの?
知りたい。
けど、十夜の顔を見る勇気なんてない。
そんな勇気、持ち合わせていない。
流れる沈黙が沈んでいく心に拍車をかける。
……もう、帰ろうか。
いくら待っててもずっとこのままの様な気がする。
お礼も言ったし、もう何も話す事はないよね。
そう、思った時。
「……っ」
突然十夜の右手が伸びてきて、あたしの右手にそっと触れた。
予期せぬ仕種に弛緩していた身体がギュッと強張る。
十、夜……?
激しく乱れる鼓動に反し、ゆっくりとなぞる様に移動していく十夜の指先。
その感触に全身が総毛立った。
その指は強く握りしめていたあたしの拳をいとも簡単にほどき、手のひらの上を滑っていく。
──辿り着いたのは、あたしの指。
「………っ」
スルリと絡み付く指に何が起きているのか全く理解出来なくて、視界に映るその光景をただ黙って見ている事しか出来なかった。
十夜の温もりによって研ぎ澄まされていく神経。
リアルに感じる鼓動。
それはあたしを惑わせるのに十分で。
絡み付くその指から目が離せない。


