十夜の瞳にフッと陰が落ちる。
切なげに揺れるその瞳に、まるで暗示をかけられた様に両腕が上がった。
──違う。暗示なんかじゃない。
あたしの自制心が崩れたんだ。
漆黒の瞳によって、呆気なく崩された。
十夜の両腕があたしを軽々と持ち上げる。
その懐かしい感覚に身体が震えた。
まだ深く刻まれたままの感覚。
十夜に触れる度思い出す。
今まで培ってきた、想い出を。
「掴まれ」
「………」
そう言われても、やっぱり素直には従えなくて。
前みたいに喜んで抱きつく事が出来ない。
どうしても躊躇いが生まれてしまう。
「……っ、」
そんな事を思っていると突然手首を掴まれて、グイッと前へと引き寄せられた。
身体が前へと倒れ、温かいぬくもりに受け止められる。
「ちゃんと掴まってろ。離すな」
十夜の声が身体を通じて耳に響いた。
そのリアル過ぎる感覚に呑まれて返事が出来ない。
返事の代わりにギュッと服を握りしめると、その手の上に十夜の手が被さって強く握り締められる。
それはほんの一瞬で。
温もりをハッキリと感じる事が出来ないままその手は離れていった。


