駅裏に着くまでの間、ずっと十夜の後ろ姿を見ていた。
見上げるぐらい高い身長も。
あたし一人隠れてしまいそうな広い背中も。
風になびくサラサラな黒髪も。
強く握って離さないこの大きな手も。
「ん」
そして、この吸い込まれそうな綺麗な漆黒の瞳も。
全てこの目に焼き付けておこうと思った。
焼き付けて焼き付けて忘れないように、全てを焼き付けておこうと思った。
十夜が持っていたヘルメットをあたしに被せ、顎紐をとめる。
触れそうな程近い所にある十夜の手に、全神経がそこへと集中していくのが分かった。
微かに触れた手が静かに下ろされ、今度は両手を差し出される。
その合図が何の合図かなんて直感で分かっていた。
けど、素直に腕を上げる事が出来ない。
まだ辛うじて残っている自制心。
十夜に送って貰って、もし獅鷹の人達に見つかったりでもしたら……。
その想いがあたしに歯止めをかける。
あたしはいい。
見つかって責められても、それは自業自得だから。
けど、それが原因でまた獅鷹と鳳皇がぶつかりでもしたら、後悔だけじゃ済まなくなる。
そんな事になるんだったら歩いて帰った方がマシだ。
「……凛音。心配するな。獅鷹までは行かない。手前で降ろしてやる」
「……っ、」
まるであたしの心を読んでいたかのようなその言葉に目を見開いた。
この人は、全てお見通しなんだ。
あたしが今、何を考えていつか。何を悩んでいるか。
全て分かってるんだ。
「だから、乗れ」


