どれだけ心の中でそう言っても、本人には伝わらない。
分かっているけど、今、十夜に伝えても本当に十夜の心に響くのか分からなかった。
アイツと出逢う前に戻ったも同然な十夜に、果たしてこの想いを言ったところで伝わるのか。
ネジが一本取れただけで簡単に狂ってしまった歯車。
元に戻すにはネジを元の位置に戻すしかない。
けど、俺達にはそんな簡単な事が出来ないんだ。
俺達のネジは遠い所に行ってしまった。
連れ戻して元の位置に戻せたらどんなにいいか。
今はもう、連れ戻す術さえ分からない。
「──煌、俺も電話してみるわ」
「……あぁ、頼む」
彼方が駄目ならもう一度俺から電話をしよう。
そう思ってスマホのロックを解除した時。
「彼方、待て」
「は?」
タイミングよく画面に映った陽の名前に直ぐ様待ったをかけた。
表示された名前に取り敢えず安堵の溜め息を吐き、受話ボタンをスライドさせる。
そして、いつもの様にスピーカーホンにした。
「もしもし?陽か?今何処にいる?」
『………』
「もしもし?陽?」
おかしい。何度問いかけても電話口からは何も聞こえてこない。
確認の為、携帯を一旦耳から離してもう一度画面を覗き込んでみたけど、画面には通話中の表示が映っている。
どういう事だ?何故何も言わない?
そう思った時。
『──宮原 陽は鷺ノ宮公園にいる』
電話口から聞こえたのは、陽ではなく聞き覚えのない男の声だった。