分かっていた事だ。

十夜達があたしの事なんて何とも思っていないという事なんて。


それはあの決別した時に分かってた。

だから、今更胸を痛ませることなんてない。



「り──」

「陽、スマホ貸して?」

「……え?」


陽の言葉を遮って、陽に向かってスッと手を差し出す。


「スマ、ホ……?」

「かけるの、煌に」

「………」


その言葉に陽は一瞬顔を顰めたけど、黙ってポケットから取り出して「はい」と渡してきた。


手渡されたスマホを受け取って、ジッと見つめる。


本当は、電話をかける勇気なんてない。


そんな勇気、ある訳ない。


けど、今は自分の事より陽の方が大事だから。


もう、自分の感情を優先させたりしない。



「凛音……?」


「陽……」


その呼び掛けに顔を上げる。


交わる視線。


平気なフリをしているけど、きっと立ち上がるのも困難だと思う。バイクの運転なんてもってのほか。


陽を無事に帰す為には十夜達に迎えに来て貰うしか方法はないんだ。


ゴクリと唾を飲み込んで、フゥと息を整えて気持ちを落ち着かせる。


……まさか、自分から煌へ電話するなんてね。



手汗が滲んで、緊張が走る。


震える指で履歴を開けば、見知った名前ばかりがずらりと並んでいた。


意を決して指に力を込める。


トンッ。


ボタンを押した感触と、視界に映る煌の名前と番号。


暗示にかけられた様にそれから目が離せない。


耳にあてなきゃいけないのにそれさえも出来なくて。


画面が変わった途端、緊張で汗が噴き出た。


微かに聞こえてきた声に電話が繋がったんだと分かる。


ゆっくりとスマホを耳にあて、口を開く。




『───宮下 陽は、鷺ノ宮公園にいる』



発した声は、自分でも驚く程落ち着いた声だった。