唇が震えて、名前を呼ぶことさえ困難で。

それでも、誤解されたままなんて嫌だから。


「陽……」


一度唇をキツく結んで、真っ直ぐ陽を見つめる。


陽───そう呼ぼうとした時、スマホの着信音が響いた。



「陽」


電話に出ようとしない陽に「出ていいよ」と促す。


けど、



「いい。多分、煌からだから」


陽は携帯が入っているであろうポケットを見ようともせず、あたしを見つめたままそう言った。


あたしから視線を外さない陽。


その真剣な表情を見て、さっきの答えを待っているんだと思った。


応えなきゃいけない。

ハッキリ言わなきゃ。


もう、嘘はつきたくないから。



「あたしは陽が好きだよ。嫌いになんかなれない」


「じゃあ!」


「でも!」


「………っ、」


「無理なの。繋がっては、いけない」


「何で?何でだよ!!」


「陽、これはあたし達だけの問題じゃないの。貴兄達にも、そして十夜達にも言わずに付き合って行くなんて、出来ない。“何か”があった後じゃ遅いの」


「じゃあ皆に言えば──」


「許してくれると思う?」


「………っ、」



ほら、やっぱり陽もちゃんと分かってる。十夜達が許してくれないってこと。



苦虫を噛み潰したような表情の陽にフッと笑みを零して、そっと目を閉じる。


もし、逆の立場なら、あたしも陽と同じ事をしているかもしれない。

ううん。きっとしてる。



「俺は───っ、」


まるで陽にその先を言わせないとでも言っているかの様にタイミングよく鳴り響いた着信音は、きっと煌から。