傍聴席に入ると、そこには先に到着していたお母さんと剣人さん、そして父親と再婚相手の女性の姿もありました。
 他にはマスコミの方が少しいらっしゃるくらいですね…。

 適当な位置に座り、神野くんと雷斗くんはお母さんたちの傍に行きました。

「失礼?」

『はい?』

 気づかれたかな…。

 声をかけてきたのは父親です。

 出方を窺っていると、父親は名刺を差し出してきました。

「私、大宮怜と申します。今回の事件の被害者の父親です」

『はぁ…』

「実は今、その娘が失踪しておりまして、裁判に出るように言いつけるつもりだったのですが…。もし、見かけましたら是非ご連絡のほどを」

『…なんで、いなくなったんすか?俺、あんま詳しくねぇけど、娘さんショックで部屋に閉じこもってたんすよね?シャッターまで閉めて』

「え、…えぇ、実は私たちが目を離したすきに…」

『人探しなら警察に頼んだ方がいいと思いますけど?』

「ええ、それはもちろん。探してはもらっています」

『メディア関係に頼んだらどうです?俺、知り合いいるんすよ』

「い、いえ結構。とにかく、見つけたらぜひ」

 名刺を強引に押し付けて、父親はそそくさと席に戻って行きました。

 それにしても、全く気付かないとは。

 変装の技術を心得たみたいです。