『弟子にしてください!』


 そう、櫻井聖に頭を下げてから一週間。あれから毎日電話をかけて、同じ台詞を繰り返した。けれども返ってくる答えはいつも同じ。

『拓斗くんのような、良い先生に師事しなさい』

 聖は言うのだ。

 自分はただ強いだけで、自分は人に教えることは出来ない、と。

 それならそれで、鷹雅のようにただ遊び相手のような感覚でいてくれるだけでもいい。相手がいるのといないのとでは、本当に伸びが違うから、とシンは思っていた。

 シンは聖が剣の使い手であることが分かっていた。何故と聞かれても分からない。彼の手と普段の所作を見ていて、そうじゃないかと思っただけの、ただの勘だ。

 剣の相手をお願いしますと言ったとき、聖は少し驚いていた。よく分かったな、と感心もしていた。

 けれども指南の話となると駄目だった。聖は頑として首を縦に振らない。

 拓斗にも相談してみた。拓斗も聖が剣士だとは知らなかったけれど、腕の良い人と剣を交えることは、きっとシンの成長に繋がるだろうと言われた。けれども聖は忙しい人だから難しいかもしれないなぁ、とも言われた。

 
 そうか。

 忙しいのならば、こちらから出向けば先生の負担も少なくて済むじゃないか。

 そんな結論に至ったシンは、さっそく櫻井医院へと出かけていった。




 小高い丘の上から街並みを一望できる、閑静な住宅街の中にある小さな医院。

 その医院の診察室で、白衣姿の聖がキーボードを操作して電子カルテを記入している。それが終わるのを見計らい、看護師が扉へと動く。

「先生、次の患者さんに入ってもらいますね」

「はい、お願いします」

 看護師の言葉に聖は頷いて、次の患者のカルテを画面に表示させた。その名前が。

「先生、こんにちはっ!」

 リィシン=グリフィノー、だった。