目の前でゆらゆら揺れる、黒い弁髪。

 視界に入ったら最後、猫じゃらしを見つけた子猫よろしく、手を伸ばさずにはいられなくなる。

 ちょっとしたスキンシップに、悪戯心が疼いたときに、そして、少し不安なときに。

 弁髪をくいっと引っ張られて肩越しに振り返る彼の、ちょっと困ったような笑顔を見てほっとするのだ。

 今日もそんな彼の笑顔を想像しながら揺れる弁髪に手を伸ばしかけて、ふと、思い止まった。

 視線は弁髪から、彼の手に。

「……」

 リィの手より、少し大きな手。

 そこに手を伸ばしかけて、また止めた。

(……霸龍闘はガンマンだから、手を塞がれるのは、嫌かな……)

 そうして結局は、いつもの柔らかな弁髪に手を伸ばすのだ。




 手を繋ぎたい。

 そういう衝動に駆られるようになったのは、いつからか。

 ほわほわと思い返してみるに、たぶん、鬼龍が瑠璃と両思いになって、すごく幸せそうな顔をしていたのを見てからだと思う。

 リィはどちらかと言えばマイペースで、あまり周囲に影響を受けることは無いのだが、そのときは純粋にただ、いいなぁ、と思ったのだ。

 そんな風に感じてみると、周りの人たちのことも良く目に入ってくるようになって。

 兄と野菊の彼氏彼女(仮)の仲も、そのうち(仮)が取れそうだなぁ、と感じたり、龍之介を「りゅーちゃん、りゅーちゃん」と呼ぶめのうが凄くかわいかったり、孔雀と奏多のイケナイ課外授業みたいな妖しい雰囲気を見てドキドキしたり。

 みんな仲がいいんだなぁ、と改めて思うわけである。


 じゃあ、自分たちはどうなのだろう。

 リィは考える。

 トラウマの多いリィをいつも心配し、気遣ってくれる優しい霸龍闘。彼の笑顔を思い浮かべていたリィの胸に、むくむくと願望が膨れ上がってきた。

 それが手を繋ぎたい、だった。