櫻井聖は大都会の郊外に医院を構える院長先生である。

 亡き祖父の意志と医院を継いだ彼は、美しく淑やかで料理上手な愛らしい妻と、素直で元気な小学二年生の娘、そして幼稚園年長の息子と暮らしている。

 一応内科の医院ではあるが小さな医院なので診療科目は問わず、幅広い年代に対応せざるを得ない。そのため、専攻が外科である聖は毎日他の科の勉強である。特に薬の処方がやっかいだ。分厚い薬学書が机の中にぎっしりである。

 毎日の診療は朝9時から夕方6時半まで。昼の休憩時間には動けないお年寄りや急に具合が悪くなった患者宅へ往診。また、たまに医師会の会合や、学校や地域の健診に赴くこともある。休みの日には進歩する医療の勉強をするため、大学病院の教授らに教えを請う。

 更には、彼は研究者でもある。

 色々あって弟として迎え入れた2人の宇宙人(現在成人男性)のおかげで地球外生命体の研究も必要となり、妻である李苑(りえん)の実家の病院で先輩と一緒に研究に勤しんでいる。この功績により、橘和音や柊真吏に、「シンとリィの主治医はお前しかいない」と白羽の矢を立てられたわけだが。

 このように、聖は忙しいのである。

 医者として、研究者としての使命はもちろんのこと、一家の大黒柱として家族と戯れる時間も確保しなければならないし、趣味の弓で精神統一したいし、その他、色々と忙しいのである。

 それでもシンとリィの主治医を引き受けたのは、偏に彼がお人よしだからに他ならない。そのことを双子は手を合わせて感謝しなければならないし、余計な負担をかけてはならない。

 ……のであるが。