「……いつまで頑張るのでしょう」

「お二人とも、もうご飯の時間ですよー」

 鬼ごっこが始まってからもう3時間は経過した。その間演奏を続けていた琴音と玲音だが、さすがにお腹が空いてきた。いつもの夕食の時間から一時間は経過している。

 そして更にお腹を空かせ、危険な状態に陥っている者がここに。

「腹減った……」

 ぐうううううー、と盛大に腹の虫を鳴かせているシルヴィだ。

「はにゃ……あそこに、極上の魔力があるべな……」

 シルヴィは涎を垂らしながら、未だ動き続ける兄ちゃん、姉ちゃん(の魔力)に狙いを定めた。

「はっ、シルヴィさん、いけませんよ、お兄様とお姉様は今修行中で……」

「しっ、琴音ちゃん! 今のシルヴィに近づいたら危ないよ!」

 止めようとした琴音を更に玲音が止め、事の成り行きを見守る。


 シルヴィは走った。

 いつまで待っても遊んでもらえない哀しさを通り越して腹が減った。

 腹が減っては生きていけない!

「にゅおおおおおおっ!」

 寝ぼけているときの姉譲りの奇声を上げて、物凄い勢いで突進したシルヴィは、リィの攻撃をかわすことに集中していたシンの背中に飛びつき、遠慮なしに首に噛み付いた。

「はわあああああー!?」

 お腹が空きすぎて危険状態に陥ったシルヴィは遠慮しない。一気に魔力を吸い上げる。噛み付くなら指にしてね、というお約束もすっ飛んで、一番おいしく吸い上げられるところからじゅるるるるー。

「シ、シンっ!」

 ものの一秒で戦闘不能に陥ったシンは、3時間の鬼ごっこの疲れもあり、バタリと床に倒れた。

 その背中にへばりついていたシルヴィは、ユラリと頭を擡げる。

「はにゃあ……美味そうな魔力が、まだあるべな……」

 遊んでもらえない哀しさを通り越して腹が減った幼竜の、いつもは愛らしい円らな瞳が不気味に光る。

「シ、シルヴィ、待っ……ひゃああああっ!?」

 リィは正面から飛びつかれ、やはり首にがぶりとされる。

「はふううううん、うめぇ、うめぇなぁ~姉ちゃんと兄ちゃんの魔力は……あー、腹くっちー(お腹いっぱい)」

 満足げに笑うシルヴィの足元に転がる、兄ちゃんと姉ちゃんの屍。


 シンもリィも強いけれど、やっぱり小さい妹を突き飛ばすのは無理か、と、琴音と玲音は微笑ましい目でその光景を見守っていた。