…ダメ、かな。
せめて結菜ちゃんだけでも、正気に戻って欲しい。
おかしいよ。間違ってる。
いじめとか、身代わりとか、そんなの身近にあっちゃダメだ。
ゴクン、と結菜ちゃんが喉を鳴らす。
お願い。ちゃんと自分で善悪を考えて。
祈るような気持ちで、開きかけた結菜ちゃんの口を見ていたその時。
ガラッ…!
急に教室の扉が開いて、人影が入ってきた。
もちろんここに帰ってくるだろう人は1人しかいない。
それをわかっているのだろう。
結菜ちゃんが、ピシッと音が響きそうなほどに硬くなった。
ピリピリと痺れそうなくらい暗く重い雰囲気の中、入ってきた人物だけがゆっくりと口を開く。
緊張からか、その動きはスローモーションのように見えて。
何か、嫌な予感がした。
「…お待たせ〜。ごめんね、待ってもらっちゃって」
そう言って、愛菜ちゃんはふわっと笑った。
まるで何事もなかったかのように。
いつもの私が知ってる愛菜ちゃんのまま、こちらに微笑みかけている。
…なんで?
あんな大声、聞こえてないはずがない。
いつものうるさい学校ならまだしも、こんな静かな場所で、あんなに無遠慮に叫んでいたのに。
それに、私たちが沈黙していた時間はそう長くない。
今のタイミングじゃ、私たちの話している真っ最中に既にトイレからは出てきていたことになる。
例えトイレまでは聞こえていなくたって、薄い壁一枚を挟んだだけの廊下には絶対聞こえていたはずだ。
なのに、どうして何も知らないふりをしているの?



