「………………………………あ」




そして、階段を降りた先、2階。



私はもう1階分の階段を降りようとして、ふと廊下に目を向けた瞬間に足を止めることになる。



うっすらと廊下の先に見えるのは、倒れた人影。



「あ……………あ……………」



言葉が出ない。



暗闇の中、少し遠いような近いようなこの距離感でもわかる、人影の周辺の地面に広がった液体。



心なしか、赤みを帯びている。



私はそれがなんなのか、頭では理解していた。



だからこそ心は理解を拒んでいるようで、近付くことが出来ない。



『捕まったら殺される』



芽衣さんの言葉が、頭の中を反芻する。



危険な場所だということは理解したつもりでいたけれど。


いざそれを目の前にすると、まだまだ覚悟が甘すぎたのだと自覚させられる。



「……………………ま」



私がそれをその人だときちんと認識して、その人の名前を呼ぶのに、一体どれだけの時間がかかったのだろう。



時間が止まったように呆然とそれを見つめていた気もするけど、一瞬だった気もする。



私は、やっと1歩を踏み出して。



「………正秀……………くん?」



出ないものを振り絞るように、そう口が動いた。