「〜〜〜〜〜っっっ!!!」




気持ちの悪い視線を振り切るように、バッと踵を返す。




それが本当に〈あの子〉なのか、なんで頭を叩きつけているのか、なにがしたいのか、そんなこと、どうだっていい。



今はとにかく、逃げなくちゃ…!!




一気に膨れ上がった危機感が、私の足を無我夢中で動かす。





これが火事場の馬鹿力ってやつなのかな。



いつもより早く走れている気がするのと、全力疾走しながらでも後ろの音を気にする耳が、やけに頼もしかった。



扉が開く音はしない。叩く音も止んだ。



もちろん、ペタペタなんていう足音も、一度だけ聞いた〈あの子〉の幼い声も、聞こえてこない。



追いかけては、来ていない?




そう思いはしても立ち止まることはできなくて、美術室から遠い方の階段まで全力で走りきり、飛ぶようにそこを駆け下りる。







…今の行動、まるで私を怖がらせて遊んでいるみたいだった。



思い出すだけで気持ちが悪い。


これじゃあまるで、子供、みたいだ。


人に悪戯をして、にんまり笑う子供……。




〈あの子〉は私が想像しているよりもずっと、人間に近いものなのかもしれない。



そう考えてまた、身体がぶるりと震える。





その震えを誤魔化すように、私は足を必死で前に動かした。