用をすませてトイレから出ると、廊下の突き当たりの方から教師がひとり、歩いてきていた。


「浮かれるな!全員席にもどれ!」


廊下にいる生徒に怒鳴り、教室の中を覗いて怒鳴り、騒がしくてたまらないと顔をしかめながら、のしのしと進んでいた。



まだ四分もあるじゃん。テスト終わったんだから、きょうくらいはしゃいでもいいでしょ。

怒鳴り散らす教師にそう言い返したのは、ぼくと同じクラスの女子たちだった。そのとおり!と、全員から拍手が起こった。

ぼくは手を叩きはしなかったけれど、心の中で深くうなずいた。




突然、鈍い音が響いた。ドン、と。

一瞬で拍手がやんだ。



「席にもどれと言ってるだろうッ!」


顔を赤くした教師が、壁を強く蹴った音だった。


生徒たちは驚いて肩を揺らして、教師を見ていた。お調子者グループも動かなかった。

ぼくのすぐ近くにいた男子がひとり、ちいさく舌打ちをした。


「いま舌打ちしたのはどいつだ!すぐに名乗り出ろ!」


教師は鬼の形相でがなった。だれもがそっぽを向いていると、固まっている生徒をかき分けてトイレの前まで来た。

そして、目線を少しずつ移動させながら、

「おまえか? おまえか?」

とひとりずつを睨めつけていった。




ぼくの限界が、そこできた。


ぷつり、と頭の中で音がした。