「早いではないか。まだ月も出ておらぬ故、酒の用意も出来ておらぬ」

 部屋の奥に見える簀子(すのこ)に座っている青年が、御簾の向こうから声をかける。

「まるで俺が来るのが当然のような物言いだな」

 いきなり現れた御殿に驚くでもなく、俺はずかずかと中に入り、御簾を跳ね上げた。

「都からだって、近いわけでもないのに」

 どっかと座ると、横の青年は、ふふふ、と笑う。

「お主には、距離などあってないようなものよ」

 ふわりと手の上で袖を振れば、そこには金の銚子が現れる。

「お前にも、刻(とき)はあってないようなもんだな」

 青年は、実は男とも女ともつかない。
 祠の女神像に似ていなくもないが、髪を結いあげているわけでもないし、何より身体付きが違う。

 何となく、俺は勝手に男だと決めている。
 少年というよりは、青年、という歳だろう。