お風呂上がりに、髪をドライヤーで乾かしてから、バスタオル1枚の状態で体重計に乗った。

48、という数字に一瞬頬が引き攣ったものの、昼間に櫻田先輩から言われた数々の罵声が脳裏を過った。
 
先輩がぽっちゃり体型の女性を好むということは、以前どこかで聞いたことがあった。

モデル系の痩せている女性にはあまり興味がないらしく、骨だのミイラだの散々な例え方をしているところに、何度か私も居合わせていた。
 
「美雲さんは多少太ってた方が可愛いよ」と、以前何かの弾みで上機嫌になっていた櫻田先輩に言われたこともあった。
 
私からすれば、春に比べれば随分と太ったように思う。

それでもまだ、貧相だと言われてしまうことが少しだけ気になった。

どうせ特に考えずに適当なことを言っているのだと、八当たりのように私に対して暴言をぶつけたいだけなのだろうと、色々な解釈をしてみても、昼間の会話はどこか心に残ってしまっていた。

ダイエットをしているというのは、口から出まかせだった。

何故そのような嘘をついてしまったのか、未だにあの時のことを思うと後悔が止まらなくなった。

まるで贅沢病のような、限度を知らない若者のような、そういった悪い印象を周りに与えてしまう言い訳だと、自分でも分かっていた。
 
食事が喉を通らなくなったのは、10歳の頃だった。

それは何の前触れもなく、大きなきっかけもなく、突然に始まった。

ある朝、家政婦が用意してくれた食事を見て、喉が僅かに脈打った。食卓に着いた時、箸を持った手が震えていた。

食欲がない、というのではなく、形容しがたい不快感が当時の私の肩にずしりと乗っかっていた。

これから先のことは分からなかった。

けれど、「今、自分がこの食事をとることができない」ということはハッキリとしていた。
 
私は箸を置いて、そのまま部屋へと戻った。

熱があったわけでもないし、体調が悪かったわけでもない。

ただ、食べ物に激しい不快感を持たずにはいられなかった。

あれから続いた毎日を思えば、今は充分太っているし、自分にしてはよく頑張った方だと思う。
 
それでも、40キロを一生かかっても越えられないと信じていた頃に比べて、体型が見劣りしているように思えた。

私自身は、あばら骨が肌に鮮明に浮き上がっていた自分に満足していた。
 
――せめて40キロにまでは体重戻さなきゃ。
 
体重計を衣装箪笥の下に入れてから、一人でガッツポーズを作った。