東京駅へ降り立った時、ほんのかすかに眩暈がした。

2時間近く電車に揺られていた間は、別に何ともなかったというのに、急に溢れた人だかりに、酔ってしまったのだと思う。

車両とホームの間にできた隙間に車輪を引っ掛けないようにと、力いっぱいスーツケースを両手で持ち上げた。

服と文具しか入っていないはずなのに、やけに荷物が重く感じた。

3月の22日、あの日のことは今でもよく覚えている。
 
たった1人で片田舎から出てきた私は、不安ばかりを抱えて、僅かな寂しさに後ろ髪を引かれ、「今ならまだ引き返せる」と混乱する頭の中で考えてしまった。

小さい子どもが母親に手を引かれながら階段を降りて行く姿を、私は湿った視線で眺めてしまった。

私の親は、見送りにさえも来てはくれなかった。

長年別々に暮らしていたのだから、特別に期待をしていたわけではない。

一緒に東京駅まで来てくれるだとか、こちらに移住してくれるだとか、そんなご大層なことを実父母に望んではいなかった。

入学式には叔父が参加してくれると、母からメールで知らされていた。

これから向かうアパートも、叔父が保証人になってくれたそうだ。

何か東京で困ったことがあった時は、まず1番に叔父の携帯に電話をかけるよう、母から何度も言われていた。
 
誰もかれもが幸せそうで、この大きなホームの上、一人ぼっちなのは自分だけのように思えて、私は堅く唇を結んだ。