新太との事ばかり考えてしまうのに。

仕事をしていた方が楽なのに。

私はため息をつくと、会社を出た。

マンションに着いて玄関ドアをあけると、そこに置かれている鏡の中の私と眼が合う。

私は、ペタンとスタンドミラーの前に座った。


『新太、眼鏡かして』

『だめ。アンナは眼、悪くないだろ』

『かけてみたいもん』

『すぐ返せよ』


……こんな会話も、もうない。

私達には、もうなにもないのだ。


『新太、英語教えて』