抱き寄せて、キスをして《短編》

「おやすみ」

課長は、少し微笑んでから踵を返した。

私は暫く呆然とその後ろ姿を見つめていた。

どれくらいそうしていたのかは、分からない。

だけどなんだか急に寒くなって我に返った。

……帰ろ。

ゆっくりと体の向きを変え、私はトボトボと歩き出した。

交差点を渡ると、大通からそれる為か、人通りが極端に減る。

その時、街路樹の脇から見知った顔が現れた。

背が高く、ボサボサ頭の眼鏡のアイツ。

「新太?!なにやってんの?」

なんだか凄く久し振りな気がしたから、私は少し笑った。

「なんか、久し振りだよね。どうしたの?」