抱き寄せて、キスをして《短編》

「アンナ」

ドキンと鼓動が跳ねて、私は課長の胸の中で身動ぎした。

「心の中で、ずっとそう呼んでた」

早鐘のような心臓が煩くて、どうしたらいいか分からなくて、私はただただ課長の厚い胸に抱かれていた。

路地裏まで聞こえる何処かの音楽が、やけに良く聴こえる。

「アンナ、好きだ」

「か、課長……あの、あの私」

課長が僅かに身を離して、私の目を覗き込んだ。

「ん?なに?」

課長の涼やかな瞳と、通った綺麗な鼻筋。

それらが凄く近くにあって、私は不思議な気がしてならなかった。

「みんなに、見られます」

「かまわない」