翌朝、いつもと変わりなく、マリカはスウェルの剣の稽古に顔を見せた。


「マリカ・・・。来てくれたんだ。
もしかして、もどってきてくれる気になったとか?」



「朝稽古は来ます。でも、いっしょに住むのは・・・ごめんなさい。
オーレアはもどってもいいって言ってくれたけど、今もどっても召使いのひとりだし、それなら王宮や病院で働いた方が有意義だと思って。

それにオーレアの様子も毎日みたいし・・・。
オーレアは自分の見た目をすごく気にしてるけど、私はあまり関係ないの。
彼がいなければ、私は生きてここにはいられなかったし、自分が目指したい仕事を与えてくれて、奴隷扱いもされないわ。
感謝することがいっぱいで、私は恩返ししなきゃ!ね。」



「そうか。おそらく・・・近いうちに化け物たちと大きな戦いをしなければならないと思うが、そのときにはマリカたち救護班にも活躍してもらわないとな。

俺は先頭で戦うよ。
絶対に後方へは攻撃させないからな。」



「ええ、信じてます。
あっ・・・でも、こうやって朝稽古のときに来ては私はお邪魔・・・?」


「それはない!
マリカが来る頃には、もうトレーニングは終わり頃だからな。
でも・・・前から聞きたかったんだが、どうして病院の仕事もしているのに、剣を振るんだ?」



「それは、私も長い習慣だから・・・かな。
父も習慣として稽古していることをやめるなら、きちんとした理由が必要だっておっしゃってたし。」


「たとえば・・・?どんな理由?」


「えっと、私が大けがをしてしまったとか、病気になったとか。
妊娠してるとか・・・。」



「に、妊娠中はダメだよな。確かに・・・。
俺もそのときは付き合えない。」



「はぁ?」


「いや、例えばの話さ。
そうだなぁ・・・そういうときには、遅めの朝食会でもしようか。」



「私はまだ妊娠などしてませんし、予定もありません!
とにかく、私は練習を始めます。
お話だけなら、先にあがってください。」


「ま、待てって。
俺は指導する立場なんだからな。
よし、姿勢はいいな。
踏み出して突いてを繰り返す・・・おや?マリカ、ちょっと待て。
その手の指はテーピングではないようだが?どうした?」


「ぶっ・・・言わなければダメですか?」


「うん。手のけがは剣の稽古にはむかない。
まずはしっかり治してからだと思うが、理由をきかないとなぁ。」


「わ、私・・・料理の手伝いが苦手で、アリシュレア様のところで行儀見習いとして勉強しながら働いているのですが、手を・・・切ってしまって。
それに、お針仕事も・・・針で手を突いてしまって・・・こんな。」


「そうか。そうだったのか、悪い・・・言いたくないことを尋ねてしまって。」


「それだけですか?そんなのもできないのかってバカにしないの?」


「なんで?不慣れなことを練習すれば仕方がないことだ。
勉強中なんだからな。
それに、マリカは真面目だから慣れればすべてできるようになる。」


「スウェル・・・。
はい、私、剣同様にがんばります!」


「よし、その意気だ。」