スウェルはクスッと笑顔になると、マリカを軽く抱きしめてつぶやいた。


「オーレンは君の薬の知識に感心したんだと思うよ。
傷を早く治してくれたお礼に、回復魔法を完全なものにしてくれて与えてくれたんじゃないかな。」


「そ、そんなことができるの?」


「オーレンならできるさ。君は回復魔法の種みたいな力があった。
だから、その力を最大限に発揮できるように与えたというより、完全に目覚めさせてくれたんだよ。
彼の得意とする魔法は、種を発芽させる魔法。
つまり、その人の持ってる可能性をはっきりと示してくれること。

俺の未熟な魔法もオーレンによって目覚めさせられていって、いろんな力を得ることができるようになった。
つまり・・・君は俺の妹弟子ってことだな。あははははっ。」


「そ、そういうことになるの。」


「まぁ、君はオーレンに弟子入りしたわけではないから、正確には彼の恩人ということになるだろうけどね。
あ、悪い、カナビスとの時間まで準備の時間がいるね。
お互い、シャワーを浴びてから早々に食事をすませよう。
じゃ、あとで・・・。」


「はい。」


マリカは驚いていた・・・スウェルは王族ではなくて、貴族か騎士の家の人だと思っていたのに。
農民の息子だとは・・・。

オーレンが師匠だというのもびっくりだった。
リオレバという国は身分制度はすでに過去の産物で、名称は残っていても現実には実力主義なのであった。
農民であっても圧倒的な食糧を生産できている、または個性豊かな作物を作り続けているなど、高評価があれば皆から認められる世の中になっていた。


それに比べたら、シューカウリはなんと古臭くて小うるさい国だったのだろう。
前国王は家柄や身分、評価されるのも騎士としてすぐれた武術を披露できた者のみが受け継がれていく。
だから、これからはリオレバと同じように、努力すれば認められる人物もたくさん出てくるのだろう。


しかし、最近のシューカウリは魔法を扱える人たちの悪行をよく耳にするようになった。
魔法が使えない人々は、時として金品を略奪されても手も足も出ない状態だ。


田舎の保安官であっても、全員が強い魔法を使えるとは限らない。
そういうこともあってスウェルたちのような領主たちが領民を守る努力も必要となったのだが。




マリカがお昼をすませて身支度をして、玄関を出てみるとカナビスが立っていた。

「えっ!!まさか、またこっそり見てたの?」


「いいや、今来たところだった。
いくら私でも君のストーカーまでするつもりはないよ。
そんなことすれば、君に嫌われてしまうしね。」


「だけどこの間とか・・・。」


「それは警護するためだよ。
物騒な世の中だからね、攻撃魔法を自由に使えないお姫様はどこから狙われてもおかしくないのだから。」


「あの・・ね、お邸の見学ツアーなんだけど・・・。」


「ああ、スウェルも参加するんでしょ。」


「知ってたの?」


「ああ、そこに来てるし。」


「やあ、マリカちょうどいいところに来れてよかったよ。」