マリカの髪の間から血が流れてくる。

スウェルは出血する首に手を当てて茫然としていた。


冷静なカナビスはスウェルの様子に驚いていたが、すぐにスウェルに命令するように言った。


「何をやってるんです!すぐに止血魔法をかけてください。
それから回復魔法を・・・ぼ~っとしてる場合ではありませんよ。」


スウェルはカナビスに怒鳴られるまま、マリカの手当を始めた。



「すまん・・・俺が大人げなかった。
マリカがあんなに楽しそうに、君と剣を交えてて、すごく腹立たしくなってしまって。
申し訳ない。」


止血をすませると、スウェルはマリカを抱えて彼女のベッドまで連れていった。

そして、回復魔法をかけ続けた。


「ん・・・んぁ・・・うわっ!・・・スウェル・・・様。」


「まだ動かない方がいい、傷がふさがったばかりだ。
俺の回復魔法は君の薬草がない分だけ、治癒に時間がかかる。
すまない・・・。まさか、君の体に傷をつけてしまうなんて・・・。」


「私は何をしたらいいんですか。」


「えっ?まだ傷も癒えていない。
焦らなくていいんだ。」


「私の負けです。傷は私の薬ですぐ治りますから、何でも申し付けてください。」


「じゃ、明日からやってもらおうかな。
俺と朝に剣の稽古をすること。

カナビスに立ち会ってもらえばいいだろう?」


「えっ・・!!」


「俺と2人になるのが怖かったんだろう?
まだ出会ったばかりの仇だもんな。
気がきかなくてすまなかった。」


「あの・・・どういうことですか・・?」


「カナビスに怒られたよ。
20歳にも満たないレディを狙うような約束をしたら、逃げたくなるだけだと。

俺は戦いのときは気がまわるのに、君に対してはぜんぜん機転がきかない。
カナビスは君とあんなに打ち解けているのに・・・俺はだめだなぁ。」


「そんなことはありません・・・。
領主様に手合せしてもらえるだけでも、ありがたいことなのに・・・私は。
どんな罰でも受ける覚悟です。」


「罰など与える気はない!
それに君は、俺を治療してくれたじゃないか。
お返しだと思ってくれればいいんだ。

それとも、やっぱり俺は敵だから許せないのか?」


「いえ、そういうわけじゃなくて・・・住む世界が違うっていうか、私は使用人ですし・・・。
いくら剣の稽古っていっても、相手がリオレバを勝利に導いた騎士で、領主様で・・・。」


「俺は王族じゃない。
もしかしたら、君よりずっと貧しくて、愛情に飢えているのかもしれない。」


「えっ?」


「いや、過去がどうのっていうのは関係ない。
そりゃ、戦争の勝敗はもちろんあったけれど・・・俺はこの邸で思い出をたくさん持っている君にいろいろ話をききたいんだ。」