「本当は、待っていたんじゃないの?
セイくんが家を出て行った、あの日の夜も」
セイくんは深夜だから、
おじちゃんにも執事さんにも会わなかったって言ってた。
会おうとしていなかったら?
「……何の話だね?」
「あの日、セイくんが出て行った夜、そうやって帰ってくるのを待っていたんじゃないの?
追いかけることもしないで、ただ待ち続けたんじゃないの?」
「……愛ちゃんが何を知っているか知らんがね。
わたしは、待っていないよ、星夜のことなんて」
「じゃあ何で今、お酒飲まないでいるの?
おじちゃん、いつもお酒、いっぱい飲むよね?
飲まないなんて、可笑しいよ」
「飲まない日だって、あるさ」
「嘘。
パパ言っていたもん。
何年もおじちゃんと一緒にいるけど、おじちゃんが飲まなかった日はないって。
風邪引いた時は、玉子酒飲むほど、お酒好きだって。
おじちゃんに、飲まない日なんてない」
噛んだら台無しだから。
あたしは噛まないよう、出来る限り滑舌良く喋った。
「本当は行かないでって、言いたかったんじゃないの?
期待はしていないかもしれない。
だけど、嫌いだなんて一言も言わなかった。
出て行けとも言わなかった。
行かないで、とも言えなかった。
…おじちゃんもセイくんも、素直じゃないなぁ」
セイくんが出て行った日の夜。
行くなって一言でも言えたら。
…きっとここまで、事態も仲も、悪くならなかった。