夏彩憂歌

「んで、これはもうひとつのお願い」

慶兄さんはぽんぽんと私の頭を撫でた。

「こないだ言ったこと覚えとる?
ひとは、愛しとるひとのためにしか死ねんって話」

「うん」

「俺、米国や英国が鬼畜やとは思わん。いつか、文月がおばあちゃんになる頃にでも……」

慶兄さんは意志の強い瞳をまっすぐ私に向けた。

「俺は、お前の為に死ぬ」

一瞬、息をするのを忘れるくらい、心が鷲掴みにされた。

「……ってのを、米英の言葉で言ってみてほしい。ほんで、俺に教えて、な?」

わかった、と頷いて深呼吸をする。

頬が火照る。

どこまでも私をどきどきさせるのが上手な慶兄さん。

慶兄さんの優しい笑顔に包まれて、私はいつも笑顔で過ごせていたんだ。