夏彩憂歌

誰よりも好き。大好き。

どうしてそばにいてくれないの?

気づけば近くの木の幹を夢中で叩いていた。
むき出しの木肌に私のこぶしは傷つけられ、血に染まっていった。

痛みは感じなかった。

かまうもんか。

どれくらい叩きつけていたのか分からない。

「文月!!おま…、何やっとん!」

聞き慣れた慶兄さんの声が頭の上から降りかかり、両手首を捕まえられた。

血だらけの手を見て、慶兄さんは顔を歪めた。

「頼むで、やめて……」

私はこの時初めて、強く優しい慶兄さんの涙を見た。