夏彩憂歌

慶兄さんはいつかのように口を真一文字に堅く堅く結んで私を見た。

凛とした慶兄さんの姿は、決意を固めたことを物語っていた。

「なんでっ……」

私は自分でも分からないまま、家を飛び出して深い草を踏み分けて走った。

息が切れる。

19…19歳……

悔しくて悲しくて辛くて、そこから消えてしまいたかった。

慶兄さんは5月生まれ。
つい先月19歳になったばかりだ。

来月私は14歳になる。

1年に2ヵ月だけ、私と慶兄さんの歳の差が6つになる期間があるのだ。
まさかその短い期間に、こんな悲劇が起こるなんて。

「嘘って言ってよ……」

気がつくと、私はよく山菜を採りにくる小さな山の中にいた。

空は真っ赤に染まっていた。

私の後ろにあるのは、優しく暖かい想い出たちだった。

いつの日か負われた、慶兄さんの広い背中を思い出す。