夏彩憂歌

この薄っぺらい赤紙が、ひとの命だって言うの?

私の大好きな慶兄さんの?

「冗談やめてよ!!」

赤紙に向かって叫んだって仕方がないのは百も承知だった。

私の声を聞いた松兄さんが隣の部屋からやってきて、小さく私の名前を呼んだ。

松兄さんも憔悴しきった顔で、そこから感情を読み取ることはできなかった。

「ねぇ松兄さん?」

私はどうしても涙をこらえることができず、震える声のまま続けた。

「――どうして?」

松兄さんだってつらいんだ。

分かってる。分かってるけど。

「慶兄さんはまだ20歳になってへんよ!?それに、慶兄さんは免除のはずや……」

「徴兵令は改定されとる。20歳やなくなった。19歳から、徴兵される」

「嘘……」

「嘘やない。……それから、この徴兵は」

その時、松兄さんの言葉を遮るように、慶兄さんが部屋に入ってきた。

「俺の、志願なんや。文月、ごめん」