夏彩憂歌

戸籍上は慶兄さんも農家の長男だ。

大丈夫、大丈夫。

私は泥だらけになりながら農作業の手伝いをし、毎日のようにそう自分に言い聞かせていた。

大丈夫よ、大丈夫……。

ねえ?

神様。
あなたが本当に、存在するのなら。

どうかどうか、兄さんたちを返して。

そして、どうか……

慶兄さんだけは、連れて行かないで…?


「ふづき」

私の名前を呼んで、私に微笑む、彼だけが真実で、私を安心させる存在だった。