夏彩憂歌

「こーんな可愛い子に、美味しいお米食べさせることができたんやで?」

慶兄さんの大きな両手に頬を挟まれたまま、そんなことを言われた私は恥ずかしくなって俯いた。

「文月もな、こんな時代に生まれてまったもんで、不憫やな…」

慶兄さんは私の頬に両手を当てたまま、額をコツンとぶつけた。

ものすごい至近距離に、大好きな慶兄さんの顔がある。

整った顔立ち。

十五になった慶兄さんの背はぐっと伸び、顔つきもぐっと大人っぽくなった。

目を閉じた慶兄さんの睫毛は、びっくりするくらい長かった。

「いつ、終わるんやろな」

ふいに慶兄さんが目をあける。

数センチのところで目があってしまい、私は真っ赤になりながら目を逸らした。

口元で可笑しそうに笑いながら、慶兄さんは続けた。

「戦争、いつ終わるんやろ」

慶兄さんが呟く言葉の答えは、この時はまだ誰も知る由もなく。

静寂に溶け込んでゆっくりと宙に舞った。