夏彩憂歌

静かに玄関を開けて、私の手を引きながら慶兄さんは外へ出た。

静寂に包まれた暗闇の中、不思議と怖くなかったのは確実に慶兄さんの優しさを直に感じていたからだ。

「文月、ちょっと散歩しよ、な?」

慶兄さんの言葉に頷きながら、私は涙を拭った。

しばらくして、慶兄さんは私に聞いた。

「なぁ、何があったん?」

私がうつむきながらその日あった出来事の全てを話した。

話し終わると、彼は足を止めてゆっくりとしゃがみ、目線を私に合わせた。

「優しいなぁ、文月は」

聡明な瞳を優しく微笑ませ、彼は私をきゅっと抱き締めた。

私の胸はそれだけで大きく波打つ。

やっぱり慶兄さんは、特別な存在だった。

「俺は叔母さんは後悔しとらんと思うけどな」

「どうして?……大事な、着物やったんよ?」

私を抱き締めていた彼の手が緩み、一旦私の身体を離した。

その手が、私の顔の輪郭を優しくなぞる。