夏彩憂歌

米の買出しは、大概着物との交換だった。

当時はお金もなかったし、お金というものが信用できなかったから、物々交換が1番確かだった。

現在のように衣服は使い捨てではなく、1枚1枚が財産だったんだ。

着物はほどいて洗い張りをして、仕立て直してまた着る。

そういう時代だった。

米どころか、とにかく食べものがない時代だったのに。

自分のわがままが、とても子供じみたものに思えて私は涙が止まらなかった。

「……文月?」

あの日、静かに泣いていた私の枕元に立っていたのは、慶兄さんだった。

「慶にいちゃん……?」

「泣いとるん?文月?」

慶兄さんは私の枕元にひざまづいて、私の顔を覗き込んだ。

私たちは、大人1部屋、子供1部屋でみんな集まって寝ていた。

夜中に用を足そうと目を覚ました慶兄さんは、私が起きているのに気付いたらしい。

「おいで?」

嗚咽をどうにかこらえている私を、軽々と抱き上げて慶兄さんは寝室を出た。